2000 春季

幕末期の日本を舞台に、当時の開国、西洋文明と西洋人の流入からやがて続く倒幕、そして戊辰戦争という時代の流れの上で、対照的だが友情で結ばれた2人の男の人生を綿密に推敲されたストーリーで描いている。手塚作品の中でも『アドルフに告ぐ』と並んで緻密に作られており、絵のタッチも劇画的である。遊び人の蘭方医・手塚良庵の砕けた性格を手塚自身に重ね、対して一方真っ直ぐな武士である伊武谷万二郎は、一つの作者の男性の理想像とも取れる。途中、坂本龍馬のような男性的英雄も登場するが、作者も「あまりに男性的な人物を描くのは苦手」と言うとおりキャラクターが余り引き立たず、行動だけがから回って豪快に見える。 本作と同様、蘭方医を主役に幕末を描いた作品に、司馬遼太郎の『胡蝶の夢』がある。主役は松本良順と司馬凌海であるが、手塚良庵の名も出てくる。

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